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つばくろ
つばくろ
山本 周五郎
「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页
生命と若さの溢れるような、みずみずしい妻の姿に、高雄は初めて女の美しさをみつけたような気がした。
「――そのおまえが、……おいち、そのおまえが、おれの知らないところで……」
高雄は眼をつむったまま、そっとこう呟やいて、苦しさに耐えないかのように、喘いだ。
廊下を妻の来るのが聞えた。
その足音はいつもの妻のものではなかった。弱々しく躊らいがちな、爪尖で歩くようにさえ聞えた。高雄は妻が坐るまで黙っていた。それから眼をあいて岳樺の枝を見あげ、薄く霞をかけたような空の青を眺めた。
「――おまえにききたいことがある」
彼は妻に背を向けたままで云った。
「――私もききにくいし、おまえも答えにくいだろうと思うが、とにかく、正直に返辞をして貰いたい」
おいちははいと云った。低くかすれた声ではあるが、すでに覚悟をきめたという響きがあった。高雄は挫けそうになる自分に鞭を当てる気持で、思いきって妻のほうへ向きなおった。しかしそのとき、廊下をばたばたと大助が走って来た。
「たあさま、かあかん、ちばめよ、ちばめがおちかけたのよ、ちばめのおちよ」
まわらない舌で叫びながら、走って来て、母親の肩を掴み、昂奮して赤くなった顔で父を見て、せいせい息をきらして云った。