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つばくろ
つばくろ
山本 周五郎
「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页
周囲には古い椎の木や樫や楢などが、柵のように幹を接し枝をさし交わし、その向うに荒れた草原がひろがっていた。……そこは武家屋敷の西の外郭に当る。道幅も六間ほどあって、ぐるっと的場跡を半周することができた。
月の冴えた晩であった。片側の樹立の枝葉が、道の半ばまで鮮やかに影をおとしていた。あまり月が明るいので、高雄は提燈を消そうと思って立停った。そのときうしろに尋常でないもののけはいを感じ、反射的に振り返るなり、あっと云って、持っていた提燈を投げながら、彼は横へ跳んだ。
うしろからはだしで跟けて来たらしい、覆面をした男の躯と、頭上へ襲いかかる刀の閃光とが、振り返る高雄の眼いっぱいにかぶさったのである。
「なにをする、待て」
横っ跳びに道の一方へ避け、自分の顔を月のほうへ向けて彼は叫んだ。
「人ちがいするな、紀平高雄だ」
男は樹立の陰にいた。その二間ばかり左で、抛りだされた提燈が燃えている。相手は誰とも見当はつかないが、覆面しているのと、はだしになった足袋の白さとが、烈しい殺気を表白するようにみえた。
「人ちがいではないのだな」
「――――」
「名を云え、誰だ」
高雄は危険を感じて刀を抜いた。