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みずぐるま
みずぐるま
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页
若尾は、じっと和次郎の口もとを見つめ、緊張した表情で、こくっと唾をのんだ。
「それはね」と和次郎が云った、「若尾の薙刀の腕にみこみをつけたんだ」
「まあ、いやですわ」
「本当なんだ、もちろん客に見せる芸だから、これまでのようではいけないが、生れつきの才分というか、若尾の薙刀には本筋のものがある、あとで武家の血をひいていると聞いて、みっちり稽古をすれば相当な腕になると思った」
「お兄さまも薙刀をなさいますの」
「私はやらないが姉が上手だった」和次郎の眉が、またしかめられた。が、こんどはそうきつくではなかった、「この家中には磯野萬という女史がいて、正木流の薙刀では江戸にも聞えた達者なんだ、姉も女史の教えを受けたのだが、若尾もそのうちに入門させよう、免許でも取るようになれば河内の家名が立つからね」
「わたくし云いませんわ」若尾が思いいったように唇をひき結んだ、「わたくし、できるでしょうかなんて申しませんわ、きっとやりとげますって云いますわ、きっとですわ」
「いまからそういきまくことはないよ、入門は、もっとさきのことだ、そのまえによく行儀作法を覚えなければね」
若尾は唇をひき結んだまま、黙って、こっくりと大きく頷いてみせた。