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みずぐるま

みずぐるま

山本 周五郎

「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页

青空文庫

弘田一家でなにより案じたのは、若尾が岩本一座にいたということであった。世間には江戸の親族から養女に貰ったといい、藩へもそう届け出てある。本当のことを知っているのは弘田の家族三人と、交渉に当った家扶の渡辺五郎兵衛だけであった。もう一人、彼女を舞台でみつけて、和次郎を見物にさそった谷口修理も、若尾を見ればそれとわかるだろうが、運の好いことに彼は江戸詰になって岡崎から去った。若尾が、弘田家へ引取られてからまもなくのことで、弘田へも別れの挨拶に来たが、もちろん若尾には会わせなかった。任期は三年ということだから、そのうちには若尾のようすも変るであろうし、帰藩するじぶんにはもう美若太夫とはわからなくなるに違いない。よほど偶然なことが起こらない限り、彼女の前身は知れずに済むといってよかった。

若尾は元気に道場へかよった。

「わたくし今日は怒られてしまいました」かよい初めて半月ほどすると、若尾は和次郎の部屋へ来てそう云った、「お師匠さまってお婆さんのくせをして、ずいぶん大きな声が出るんですよ、わたくし耳が、があんとなってしまいましたわ」

「なにか悪戯でもしたんだろう」