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みずぐるま

みずぐるま

山本 周五郎

「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页

青空文庫

そして、ぺこっとおじぎをした。

その年末のことであるが、和次郎が(束脩を持って)磯野へ挨拶にいったところ、萬女史はよろこんで座敷へあげ、案じていたのとは反対に、若尾のことをしきりに褒めた。――ほかの門人にひいきがあると思われては悪いから、これまでなにも云わなかったのであるが、じつは良い門人ができたので、弘田家へ礼にゆきたかったのだ、などと云った。

「あの人はものになります、これまでずいぶん門人も育てましたけれど、あんなに恵まれた素質を持った者はありません、もしできるなら、わたしが養女に貰いたいくらいです、しかし」と女史は意味ありげな眼をした、「――あれはこなたさまが嫁になさるのでしょう」

和次郎はどぎまぎした。思いもよらない不意打ちで、まごついたうえにちょっと赤くなった。

「私がですか、いや、とんでもない」

「よろしい、よろしい」女史は心得顔に手を振った、「あれは道場へ来ると、こなたさまのことばかり饒舌ります、誰彼なしにつかまえては、こなたさまの自慢ばなしです、わたくしにまでですよ、――あれは惚気というものです」

こんどこそ和次郎は赤くなった。女史は男のようにからかい笑いをして云った。