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みずぐるま

みずぐるま

山本 周五郎

「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页

青空文庫

そうして、月のうち「七」の付く日が稽古休みであることを告げて、その芝居茶屋を出た。

すぐにも逢いたいように云いながら、約ひと月のあいだ、彼からなにも云って来なかった。そして、こちらが忘れかけていると、四月の二十七日に、また森田座の茶屋から使いが来た。若尾はでかけてゆき、いっしょに芝居をひと幕だけ見たあと、食事の馳走になって帰った。次には五月十七日と二十七日、六月は十七日に一度、――そんなふうに逢っているうちに、若尾は修理に対する警戒をすっかり解いてしまった。

「ただの己惚れ屋じゃないの、つまらない」

そうして二度ばかり続けて、修理の呼び出しを断わったりした。

たぶん修理が書いてやったのだろう、九月になって和次郎から手紙が来た。修理は友人ではあるし悪い男ではないが、いかに江戸が繁華だといっても、やはり人目というものがあるだろうし、修理もまだ独身のことだから、あまりしげしげ逢うことはよくない。ということが書いてあった。

若尾はすぐに承知したという返事を出し、それからは、なるべく修理と逢わないようにした。

すると明くる年(明和九年)の二月に大火があった。