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ゆうれいかしや
ゆうれい貸屋
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,320 字 · 42 页
姐さんのゆう女は、こう云ったが、
「いいわ、今夜のところはあたしがなんとかするわ」
「なんとかって、どうかなるのか」
「亭主になるかもしれない人のためだもの、あたしだって実のあるところをみせたいじゃないの、ちょっと待ってらっしゃい」ゆう女はすうっと立った、
「いまなにか持って来てあげるから、寝ちゃっちゃだめよ、起きてるのよ」
そして上り框のほうへいったと思うと、障子の隙間から煙のように出ていった。弥六は気のぬけたような顔で、なにか口の中で呟いていたが、やがてふっと眉毛へ唾をつけた。
「夢でなけれあ狐か狸に違えねえ、……だが京橋のまん中に狐や狸のいるわけあねえし、……すると夢かな」
独り言を云っていると、表の戸の外で女の声がした。
「ちょいとあんた、すまないけれど戸をあけて頂戴、持ってる物があるのよ」
弥六は返辞をして、もういちど眉毛へたっぷり唾をつけて、それから戸をあけに立っていった。姐さん幽霊は岡持を提げて、ああ重かった、などと云いながら上へあがる。弥六はうしろから尻尾のないことを慥かめ、そうしてともかくも元の所へ坐った。
「冷めてるけどしようがないわね、急のまにあわせだからがまんして、明日の晩はもっと御馳走するわ」