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ゆうれいかしや

ゆうれい貸屋

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,320 字 · 42 页

青空文庫

こう云いながら、女の姿はしだいにはっきりしてきた。寝衣のような物を着て細帯で、さんばら髪で、両手をこう前へ垂らし、のめるような姿勢で、凄いような眼で、じいっとこっちを見た。

「へんな声をするなよ、ゆうれえみてえな恰好して、おめえいってえなんだ」

「見ていてわからないの」相手は少しむっとしたようであった、「みたいな恰好だって、恰好つけるんじゃない、本物のゆうれいよ」

「へえ本物かい、すると誰のゆうれえだ、お兼か」

「とぼけないでよ」

ますますむっとしたふうである、「お兼なんてひと、知りゃしない、あたしゃ染次って、これでも辰巳の芸妓だよ」

「おらあ、辰巳に借りはねえ筈だがね」

「勘定取りに来たわけじゃないよ、ばかばかしい、あたしゃゆうれいだって云ってるじゃないのさ」

「それあわかってるが」

弥六はそこで欠伸をし、拳骨で涙を拭いて、まじりまじり相手を見た。

「そんならよ、辰巳芸妓のゆうれえが、どんな因縁でおれんとこへなんぞ出て来たんだ」

「そこはあたしだって、都合があるじゃないの」

「それあ誰にだって都合はあるだろうが、ほかの事とは違ってゆうれえだからな、そっちの都合ばかりで出るてえのは、おめえ、ちっとばかり勝手すぎやしねえか」