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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页
「私はもう花火なんか見たくはありません。そんなにいつまでも私を怖がらせないで、本当に、帰らせて下さいまし。サア、帰りましょうよ」
彼女は歯の根をかみしめて、やっと云うのでした。併し、その時分には、火の蜘蛛は、もう跡方もなく闇の中へ溶込んでいたのです。
「お前は花火までが怖いのかい。困った人だな。今度はあんな気味の悪いのではなくて綺麗な花が開く筈だ。もう少し辛抱して見るがいい。ソラ、この池の向側に黒い筒が立っていたのを覚えているだろう。あれが煙火の筒なんだよ。この池の下に私達の町があって、そこから私の家来達が花火を揚げているのだよ。ちっとも、不思議なことも、怖いこともありゃしない」
いつか廣介の両手が、鉄の締木の様に、異様な力を以て、千代子の肩を抱き締めていました。彼女は今は、猫の爪にかかった鼠の様に、逃げようとて逃げることも出来ないのです。
「アラ」それを感ずると、彼女はもう悲鳴を揚げないではいられませんでした。「ご免なさい。ご免なさい」
「ご免なさいだって、お前は何をあやまることがあるんだい」廣介の口調は段々一種の力を加えて来ました。「お前の考えていることを云ってごらん。