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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

六

所へと急ぎました。伊豆通いの船の出船は午後九時、それに乗って兎も角も伊豆半島の南に向うのが彼の予定の行動なのです。

待合所へかけつけると、船ではもうガランガランと乗船合図のベルが鳴り響いていました。切符は二等、行先は下田港、行李をかついで、暗い桟橋を駈け、巖乗な板の歩みを渡って、ハッチを入るか入らぬに、ボーッと出帆の汽笛でした。

六

彼の目的に取って好都合だったことには、十畳敷き程の船尾の二等室には、たった二人の先客があったばかりで、しかもそれが二人共田舎者らしく、セルの着物にセルの羽織という出でたち、顔も巖乗らしく日に焼けて、その代りには頭の働きは一向鈍感相な中年の男達でありました。

人見廣介は黙って船室に入ると、先客達からずっと離れた、隅っこの方に席を取って、さて一寐入りという恰好で、備えつけの毛布の上に横わるのでした。併し勿論寐て了う訳ではなく、うしろ向きになったまま、じっと二人の男の様子をうかがっていたのです。ゴロゴロゴットン、ゴロゴロゴットンと、神経をうずかせる様な機関の響が、全身に伝わって来ます。鉄の格子で囲った、鈍い電燈の光が、横になった彼の影を、長々と毛布の上に投げています。