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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页
剃髪の儀式によって、頭も髭も綺麗に剃られていたものですから、彼も亦同じ様に頭を丸めて置く必要があったのです。で、彼は町はずれの田舎めいた商家の中から金物屋を探し出して、一挺の剃刀を買い、森の中に隠れて、苦心をして、自ら髪を剃らなければなりませんでした。それは例の巧みな変装を解かない前ですから、理髪店に入ったところで滅多に疑われる筈はなかったのですけれど、早朝のことで、朝の遅い理髪店は、まだ店を開いていなかったのと、万一を慮る用心とから、剃刀を買うことにしたのでした。
そして、すっかり頭を剃り、経帷子と着換え、死人の手から抜取った指環をはめ、脱いだ衣類其他を、森の奥の窪地で焼き捨て、その灰の始末をつけて了った時分には、もう太陽が高く昇って、森の外の街道には、絶えず、チラホラと人通りがして、今更ら隠れ家を出て、寺に帰りもならず、止むを得ず、見つけ出すのに骨の折れる様な、併し街道からは余り距たらぬ、茂みの影に、気を失ったつもりで、横わっている外はなかったのです。
街道に沿って小さな流れがあり、その流れに枝を浸す様にして、葉の細い灌木が密生し、そこからずっと森になって、脊の高い松や杉などが、まばらに生えているのです。