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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

十六

勧められるままに千代子は背をかがめて、怖わ怖わそこへ目を当てました、最初は眼界全体にむら雲の様なものが拡って、何が何だか分りませんでしたが、目の距離を色々に換えている内に、やがて、その向側に、恐しい物の蠢いているのが、ハッキリと分って来るのでした。

十六

そこには、一抱えもあり相な岩石がゴロゴロ転がっている地面から、丁度飛行船の瓦斯嚢を縦にした程の、褐色の嚢が、幾つも幾つも、空ざまに浮き上って、それが水の為にユラリユラリと揺いでいるのです。余りの不思議さにやや暫く覗いていますと、大嚢の後方の水が異様に騒ぐかと思う間に、嚢の間をかき分ける様にして、絵に見る太古の飛竜など云う生物に似た、恐しく、巨大な獣がノソリノソリと這い出して来るのです。ハッとして、何か磁石に吸い寄せられた感じで、身を引く力もなく、と同時に事の次第が少しずつ分りかけて来た為に、いくらか安んずる所もあって、彼女はそのまま身動きもしないで、不思議なものを見続けていたのですが、すると、正面を向いた顔の大きさが、飛行船の気嚢の数倍もある怪物は、その顔全体が横に真二つに裂けた程の偉大な口をパクパクさせながら、飛竜そのままに、背中にうず高くもり上った数ヶの突起物をユラユラ動かし、節くれ立った短い足で、ジリジリとこちらへ近づいて来るのです。