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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

十八

せて嬉戯する様は、ギリシャの昔語を画題とした名画でも見る様です。

やがて白鳥が道の半ば程まで来た時、水中の人魚に呼応する様に、遙か絶壁の頂上に、青空を区切って、数人の同じ様な裸女の姿が現れました。そして、彼女等は如何なる水泳の達人達でありましょう、次々と幾丈の水面を目がけて、そこを飛び下るのです。ある者はさかさに髪をふり乱して、ある者は膝を抱えてギリギリ舞いながら、ある者は両手を伸し弓の様に背をそらせたまま、様々の姿態を以て、風に散る花瓣の風情で、黒い岩壁を舞い下り、水煙を立てて水中深く沈むのです。

そして、夥多の肉団に取囲まれたまま、二羽の白鳥は静に目ざす石階の下へと着きました。近づいて見れば、幾百段とも知れぬ、純白の石階は、空を圧して聳ち、見上げた丈けでも、身内がむず痒くなるばかりです。

十八

「あたし、迚もここは昇れませんわ」

千代子は、白鳥の背から陸上に降り立つと、先ず恐れを為して、云うのでした。

「なあに、思う程ではないのだよ。私が手を引いて上げるから、昇ってごらん、決して危くはないのだから」

「でも……」

千代子がためらう間に、廣介は構わず彼女の手を取って石段を昇り始めていました。