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ヨブきこうえん

ヨブ記講演

内村 鑑三

丸の内の大日本私立衛生会館における内村聖書研究会においてのヨブ記講義、1920(大正9)年4月25日~6月27日、9月12日~10月10日、10月24日、11月21日、12月19日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 92,828 字 · 185 页

青空文庫

一度わが生命を絶たば絶対の休安に入り得るのである。彼の如き死を慕える者においてはこれ最上の、かつ最捷径の問題解決法ではないか。マシュウ・アーノルドの作なる「エトナにおけるエムペドクレス」(Empedocles at Etna)はこの意味を表したる劇詩である。エムペドクレスが人生を不可解となして、遂にエトナの噴火口に身を投げ、以て最後の解決を計ったことを述べたものである。これ世に数多き事である。何故ヨブはこの道を採らなかったのであるか。実に死が最上の道なりと思わるる場合はたしかに在る。トマス・フードの詩「悲歎の橋」(Bridge of Sighs)の如きは一貧婦の自殺を描けるものであって、これを読んで誰人もその自殺の同情すべき者なるを思うのである。またわが『平家物語』における三位通盛の妻小宰相の自殺の如きもこの類である。実にある場合には自殺が最上のそして最美の道と見ゆるのである。

◯しかしヨブは自殺しようとは思わなかったのである。聖書は徹頭徹尾自殺を否認している。旧新両約聖書を通じて自殺を記述せるはただ四つのみである。その一はギルボア山におけるサウルの自殺、その二はイスカリオテのユダの死、その三はアヒトペルの場合(サムエル後書十七章一以下)、その四はジムリのそれである(列王紀略上十六章十八)。