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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

と野崎君は首を縮めた。

一学期の試験の時に、この紳士待遇の事実が分った。能く赤羽君が引き合いに出るが、大将、論理の答案が書けなかった。時間がドン/\迫って来る。

「おい。教えてくれ」

と隣席の私に向って微かな悲鳴を揚げた。

「駄目だよ。パートリッジ先生が見ているよ」

と囁いて、私は受けつけなかった。問題がむずかしい。私も出来ないのがあって、ベルの鳴るまで机にしがみついていた。パートリッジ先生は赤羽君のところへ進み寄って、

「書けませんかね?」

と訊いた。

「はい」

と赤羽君もそれぐらいのことは分るようになっていた。

「少しでも宜しい。真の少し」

「…………」

「この答案用紙は君には大き過ぎる。これ丈けで宜しい。お書きなさい」

と先生は紙の耳を膏薬ほど割いて渡して、ニコ/\している。赤羽君も拠ろない。名前を書いてお辞儀をして来た。それでも二学期の成績報告は論理六〇となっていたので、

「矢っ張り紳士待遇だよ。これじゃ義理にも勉強しなければならない」

と言って喜んだ。

紳士達はナカ/\横着だった。一学期で味を占めて、二学期から本性を現し始めた。秋晴の午後は兎角誘惑が多かった。