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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

今では二十五歳の中学生は絶無だろうが、二十年前には時折ないこともなかった。

下宿の婆さんも、

「先生はお幾つでいらっしゃいますか?」

と間もなく問題にした。

「二十四です」

「お若い先生でございますな。それ丈けにお出来が宜しい次第でございましょう」

「そんなこともありませんが、満でいうと二十三と少しです」

と私は益※(二の字点、1-2-22)得意だった。二十四が数年続いたように記憶しているが、そんな理窟はあり得ない。若手の筆頭として数年続いたのである。

考えて見れば、あの頃が花だった。今でも相応若い積りでいるけれど、周囲の形勢が許さない。現に昨日も鏡に向って髪の毛の整理をしていたら、妻が入って来て、

「あら! 御勉強かと思ったら、白髪を抜いていらっしゃるの?」

と不平顔をした。

「大分生えて来た」

「当り前ですわ」

「同情がないんだね」

と私は又抜こうとしたが、妻は毛抜を奪い取って、

「いつまでもお若い積りでいちゃ困りますよ」

と言いながら、鏡を手にして見入った。

「お前も生えたのかい?」

「えゝ」

「何れ?」

「こゝよ。二三本ですけれど」

「成程。もうソロ/\婆さんだ」

「それだから、私丈け抜いて、あなたは抜かない方が宜いんですよ」