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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
足だから一向功名にならない」
「首を切れば宜かったのに」
「いや、首はもう誰か切って行ってしまった後さ」
「何だ。ハッハヽヽ」
「ハッハヽヽ」
と柴田君は笑い転げた。
「それっきりかい? 河原さんの手柄話は」
「一人本当に切っている」
「豪いね」
「敵と味方が組打をしているところへ来かゝった。上になり下になって揉み合っているが、真暗闇の晩のことで、何方が何方だか分らない。念の為に、『河原だぞ!』と声をかけたら『頼む』と下の奴が答えたから、上の奴を切った。それが味方さ」
「何方が?」
「上の奴さ」
「同志討をやったのかい?」
「然うさ。慌てゝいるよ。しかし腕の冴えないのも有難いもので、大した怪我はなかったそうだ」
「敵は何うした?」
「跳ね起きると共に一目散さ。敏いよ。二人に一人じゃ敵わないと思ったのだろう」
「助けてやったようなものだね」
「然うさ。味方を殺さなかったところがお手柄さ」
「落ちついているようだが、案外粗々っかしい爺さんだね」
「しかしその頃は若かったのさ」
「一体幾つだろう?」
と私は序をもって訊いて見た。
「年をいわない人だが、会津征伐といえば明治元年だから、その頃壮年だったとすると、何うしても六十を越している」