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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

「何うしたんだい?」

「私を見かけながら知らん顔です。小使にしろ、此方は長年お世話をして上げた積りです。『音さん、何うだい?』ぐらいのことは言って貰いたい」

と音さんは憤慨していた。

「悪気はないんだが、気がつかないのさ」

「いや、あゝいう人情味のない人ですよ。そこへ行くと、立花さんあたりは如才ありません。人間は誰しもあゝあって貰いたいと思いました」

「立花君も来たのかね?」

「へえ。二三日前にお見えになりましたよ」

「それは惜しかったな」

「これが家内だと言って、奥さんを紹介して下さいました。物になるくらいの人は実に行き届いたものです」

「それじゃもう結婚したのかい?」

「御存知ありませんか?」

「知らない」

「尤も近頃でしょう。矢っ張り猪股先生を訪ねてお出になったんです」

「未だ東京にいるか知ら?」

「さあ。お郷里へいらっしゃると仰有っていました」

「新婚旅行かい?」

「然うでございましたろう。お二人で顔を見合せて、如何にも嬉しそうにしていらっしゃいました」

「成程。お芽出度いね」

と私は微笑を洩らした。小成に安んずる奴だと思ったのである。

「折角お出になったのに生憎でございましたな。