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しゅっけとそのでし
出家とその弟子
倉田 百三
「生命の川 第一巻第二号~第二巻第二号」1916(大正5)年11月16日~1917(大正6)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,812 字 · 248 页
それだのにこの不安はどうしたものだろう。この打ちかちがたき不安は! 死は私にとって損失ではない。私は長い間墓場の向こうの完全と調和とをいのちとして生きて来たのだ。私はそれを信じているのだ。それだのに私の生命のなかにはまだ死を欲せぬ何ものかが残っている。運命に反抗するこころが。おゝ私はまだ生きていたいのか? この病みほうけたわしが。九十歳になる老人が――この世になんの希望が残っている。なんの享楽が? 煩悩の力の執拗なことはどうだろう。今さらながら恐ろしい。私は一生の間運命を素直に受け取って、それを愛して来た。それに事えて来た。運命にそむく心と戦って来た。そうだ。わしは墓場に行くまでこのたたかいをつづけねばならない。もう、ながいことではない。もうじきだ。休戦のラッパが鳴るのは。その時私は審判の前に立つのだ。一生を悪と戦った、勇ましい戦士として。霊の軍勢の虚空を遍満するそのなかに。そして冠が私の頭に載せられる。仏様の前にひざまずいて私がそれをうける。(だんだん顔が輝いて来る)その日から私はあの尊い聖衆のなかの一人に加えられるのだ。なんという平和であろう。