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なんぼく

南北

横光 利一

「人間」1921(大正10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,591 字 · 40 页

青空文庫

十六

彼は棚からビール箱を下ろすと、一枚一枚釘打で板を放した。放しながら、秋三を叩いている所を想像すると、尚お彼の力は加わった。

「此の餓鬼! 此の餓鬼! 此の餓鬼!」

彼は釘打を振り上げては打ち下ろした。すると、自分が棺を造っているのだと云うことも忘れて了って、だんだん加わって来る気持良い興奮の中に、間もなく彼は三つの箱をばらばらの板切れにして了った。そして、一時間の後には旭の紋の浮き上った四角い大きな箱棺が安次の小屋へ運ばれていた。

十六

「こりゃ上等や。こんなんなら俺でも這入りたいが。どうや伯母やん、一寸這入ってみやえ。」と秋三はお霜に云って、勘次の造って来た箱棺を叩いてみた。

「冗談云わんと、早よ安次を入れてたもれ。」とお霜は云った。

「こんな汚い奴、俺ゃ知らんぞ。」

「何でも知らん知らんと云うてよ。」

お霜は安次の蒲団を捲って、「早う。」と秋三を促した。

「おい、掻き込もうやないか、汚い。」

秋三は勘次にそう云って棺を横に倒すと安次の死体の傍へ近寄せた。

二人は安次の身体を転がしながら、棺の中へ掻き寄せようとした。が、張り切った死人の手足が縁に閊えて嵌らなかった。