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なんぼく
南北
横光 利一
「人間」1921(大正10)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,591 字 · 40 页
「心臓や、医者がお前、もう持たんと云いさらしてさ。」
「どうしてまたそんなになったんやぞ?」
「酒桶から落ってのう。亀山で奉公して十五円貰うてたのやが、どだい、こうなったらもうわやや。医者が持たん云いさらしてさ、往生したわ。」
「ふむ、それは気の毒なことやなア、長いこと見んで、私ゃもうすっかり見忘れて了うたわ。何年程になるなア?」
「九年や。」
「もうそんなになるかいな、幾つやな、そうすると四十?」
「四十二や。」
「四十二か。まあ厄年やして。」
「厄年や、あかん、今年やなんでも厄介にならんならん。」
「そうか、四十二か、まアそこへ掛けやえせ。そして、亀山で酒屋へ這入ってたのかな?」
「酒屋や、十五円貰うてたのやが、お前、どっと酒桶へまくれ込んでさ。医者がお前もう持たんと云いさらしてのう。心臓や、えらいことやったわ。」
秋三は勘次の姿が裏の水壺の傍で揺れたのを見ると、黙って少し足音を忍ばせる気持で外へ出た。が、勘次を恐れている自分に気附いたとき、彼は一寸舌を出して笑ったが、そのまま北の方へ歩いていった。
勘次は裏庭から店の間へ来ると、南天の蔭に背中を見せて帰って行く秋三の姿が眼についた。