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なんぼく

南北

横光 利一

「人間」1921(大正10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,591 字 · 40 页

青空文庫

「今来たのは秋公か?」

「お前、秋が安次を連れて来てくれたんやがな。」

安次は急に庭から立ち上ると、

「秋公、こら、秋公。」と大声で呼び出した。

勘次は秋三に逢いたくはなかった。

「安次か、えらく年寄ったやないか。」と彼は安次の呼び声を遮った。

「うん、こう鼻たれるようになったらもうあかん。帰れたもんやないけれどさ。とうとうやられてのう。心臓や。お前医者めが持たん云いさらしてのう。どうもこうもあったもんやない。このざまやさ。」

「どうした?」

「酒桶からまくれてお前、ここやられてのう。」安次は胸を押えてみせた。

「ふむ、よう死なんでこっちゃして?」

「死にゃお前結構やが、運の悪い時ゃ悪いもんで、傷ひとつしやへんのや。親方に金出さそうと思うたかて、勝手の病気やぬかしてさ。鐚銭一文出しやがらんでお前、代りに暇出しやがって。」

「そうか、道理で顔が青いって。」

「そうやろが。」

「そしてこれから何処行きや?」

「何処って、俺に行くとこあるものか。母屋に厄介になろうと思うて帰って来たのやが、秋公がお前、南の家は株内やぬかして、引っ張って来よったのや、ほんまに済まんこっちゃ。」

「秋が連れて来たんか?」