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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

在线阅读直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日语阅读。JLPT N2,点词查义。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 页

青空文庫

「知ってるが、御城が見えたら八軒家や。きまってるがな」

「判ってたら支度をしんかいな。何んぼ、見たかてあけへんて」

「見るは法楽や。俺は、お前みたいに、盗見なんぞしえへん。咋夜から、じっと、こう見たままや。何遍欠伸をしやはったか、欠伸する時に、お前、こう袖を口へ当てて、ちらっと、俺の顔を見て、はあ、ああああ」

「人が、笑うてはるがな。ええ、こいつは、少し色狂人で」

乗合の爺さんが

「いやいや、あんな綺麗な人を見たら、わしかて、色狂人になる。こう、袖を口へ当てはって、ふあ、ふあ、ふあ」

四辺の人が吹出した。七瀬と、綱手とは、伏見から、三十石の夜船に乗って、一睡もしなかった。乗合衆は、船べりの荷物に凭れて仮眠をしたり、身体を半分に折って、隣りの人とくっつき合って寝たりしていたが、初めての乗合船で、人々の中で――それから、明日の役目を思うと、眠れなかった。乗合衆は、いろいろの夜風を防ぐものを持っていたが、二人には、それさえなかった。船頭が、薄い蒲団を貸してくれたので、それを膝へかけて、二人は、一晩中坐りつづけていた。

人々が起き出して、川の水で顔を洗う頃になると、八軒家、高麗橋から出た上り船が、そろそろ漕ぎ上って来た。