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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

在线阅读直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日语阅读。JLPT N2,点词查义。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 页

青空文庫

移り行く

襟垢のついた小紋に、山の擦れた繻子の帯をしめて、火鉢の前で、俯向いていた。

(さんざ、人に苦労をさせておいて――意地だの、男だのって――これまでに尽してやったのを忘れて、それで、男かい――)

今朝からは、鏡を見るのさえ、厭であった。過去の、淫らな暮しを考え、齢のことを思い、それから、この男なら一生と、見込んだ庄吉のことを――昨夜から戻らぬ庄吉のことを思うと、淋しさと、心細さと、悲しさと、そうして、怒りと、恨みと――いろいろの物がごっちゃになって――何をするのも、見るのも、いうのも、厭になってしまった。

(弟子は、一人も来なくなるし――もう、売る着物も無いし――)

それでも、富士春は、庄吉が、欺したとは思えなかった。外に、女が出来ているとも思えなかった。何も、打明けないで、やさしく恨みをいうと

「済まぬ、今に判る――俺、いよいよとなれば、お前と一緒に死んでもいいんだ」

と、いうし――そして、それは、偽りとは見えぬし、怒って詰ると

「男の意地って、そんな訳のもんじゃあねえや」

と、斬落された方の肩を聳かしたが、それも偽りとは見えなかった。

(何うしたのだろう? 何処で、何をしているのだろう)