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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
明智は少からず興味を覚えて、二千円の作品の一件を申出でた。
家主は二人を案内して、アトリエに這入り、二つ三つ窓を開いて、部屋の中を明るくした。
見た所、十坪程もある、天井の高い寺院のお堂みたいな部屋であったが、画架だとか、描きかけのカンヴァスとか、塑像の材料だとか、石膏の塊だとか、額縁のこわれたの、脚のとれた椅子、テーブルなどが、隅々に転がっている中に、非常に大きな、まるでお祭りの山車みたいな感じのものが、殆ど部屋の三分一程を占領していた。
「これが、その彫刻なんですが」
家主は、いいながら、その巨大なものにかぶせてあった、白い布をとりのけた。
白布の下から現れたのは、アッという程大がかりな、石膏製の裸婦の群像であった。
「ワア、こいつは素敵だ。だが、何て拙い人形だろう」
三谷はびっくりして叫んだ。
如何にも驚くべき群像であった。これなれば、手間賃を考えたら、二千円の値打はあるかも知れぬ。
石膏をふんだんに使った、山の様な台座の上に、寝そべっているのや、蹲っているのや、立っているのや、八人の等身大の裸婦の像が、手を交え、足を組違えて、目まぐるしく群がっているのだ。