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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
現われた事件の裏に、何だかえたいの知れぬ、影の様なものがチラチラ見える様な気がします。僕はそれが掴めないのです。唇のない男や、死骸の石膏像なんかよりも、僕は、その目に見えぬ変てこなものが、正直にいうと、怖くて仕方がないのです」
そうして二人は黙り込んでしまった。多くを語るには、あまりに事件の印象が生々しかったのだ。
間もなく車は畑柳邸の門前に着いた。倭文子は、茂少年を身近に引寄せ、屈強の書生達に守られて、奥まった一間に、半病人の体で、引籠っていたが、力に思う三谷青年が、有名な明智小五郎を同道したと聞くと、少し元気づいて、彼等に会う為に、客間へ出て来た。
斎藤老人を初め、召使達も、三谷の引合わせで、探偵の前に出て挨拶した。
丁度時間だったので、晩餐が用意された。明智は、邸内を調べる為に、相当の時間が要ると思ったので、遠慮なく御馳走になることにして、開化アパートの留守宅へ、その旨電話をかけた。
電話口へは文代さんが出たが、その時は、留守宅に、まだ何の異状も起っていなかったのだ。
それから、晩餐の席につく前に、一度例の二階の書斎を見て置くことにして、三谷と斎藤老人の案内で、彼はそこへ上って行った。