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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
室内の様子は、先日小川と名乗る人物が殺され、その死体が紛失した当時と、少しも変った所はなかった。
一目見て、普通の書斎と違っている点は、一方の壁際に、数体の古めかしい仏像が並んでいることだ。
天井の高い立派な洋室、彫刻のある大机、壁に掛け並べた、由ありげな陰気な油絵、全体の感じが、何となく古風で神秘的だ。
明智は斎藤老人に教えられて、小川が倒れていた箇所に近づき、絨氈の血のあとを検べたが、ふと顔を上げて、すぐ目の前の、異様な仏像を眺めると、オヤッという様子で、長い間それを見つめていた。
足を拡げ、手をふり上げて、立ちはだかっている、子供程も大きさのある、奇妙な仏像、その隣りに並ぶ、黒ずんだ金属製の、大仏を小さくしたような、三尺程の座像。
明智が見つめていたのは、その座像の方の、異様に無表情な、ツルツルした顔であった。
「あなた方、気づきませんでしたか」
やっとして、明智は、三谷青年と、斎藤老人を振返って云った。
その口調には、なぜか、聞く者をギョッとさせる様な、気違いめいた感じがあった。
「若しや、その仏像の目がどうかしたのではございませんか」
斎藤氏は、妙な顔をして尋ねた。