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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
小林少年が止めても、止まらなかった筈である。
彼女は何の躊躇する処もなく、迎えの自動車に乗った。そして、その行先が、思いもよらぬ、両国の国技館であることを知った時にも、さしてあやしみはしなかった。日頃突飛なことには慣れっこの探偵助手だ。
国技館前で、車を降りると、一人の見知らぬ男が、彼女を待受けていた。彼はちゃんと二枚の切符を用意して、先に立って改札口を入って行く。
黒の背広、黒の外套、黒ソフト。黒ずくめの地味な風体。その外套の襟を立て、ソフトのひさしを下げて、顔を隠す様にしている上、大きな黒眼鏡と、鼻まで隠れるマスクの為に、容貌もはっきりは分らぬ。
ヨチヨチ歩く所を見ると、非常な年寄りの様でもあり、物腰のどこやらに、隠しても隠し切れぬ、精悍な所もある。何とも異様な人物だ。
「明智さんの助手の文代さんというのは、あなたですね。私は今度の事件で、明智さんと一緒に働いているものですが、今明智さんは、この中で、ある人物を見張っていて、一寸手が離せぬものだから、私がお迎いに来たんですよ。非常な捕物です」
改札口を入って、少し歩くと、男は、マスク越しに、甚だ不明瞭な口調で、自己紹介をした。