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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

明治の昔、流行した、パノラマ館、ジオラマ館、メーズ、さては数年前滅亡した、浅草の十二階などと同じ、追想的な懐かしさ、いかもので、ゴタゴタして、隅々に何かしら、ギョッとする秘密が隠されていそうな、あの不思議な魅力を、現代の東京に求めるならば、恐らくこの国技館の菊人形であろう。

支那人の帽子のお化けみたいな、べら棒に大きな、しかも古風な大建築そのものが、既に明治的グロテスクである。

文代は嘗つて「魔術師」の娘であった丈けに、賊が(今肩を並べて歩いている男が、その賊であるかも知れないのだが)この場所を選んだ、すばらしい機智に、驚歎しないではいられなかった。

古くはユーゴーの佝僂男が巣食っていたノートルダム寺院、近くはルルウの髑髏怪人が身を潜めていた巴里のオペラ座などに比べても、決して劣らぬ秘密境である。

お椀をふせた様な、唯一室の丸屋根の下は、これ以上複雑に出来ぬ程、複雑に区切って、その中を上に下に、右に左に、のたうち廻る迷路の細道だ。しかもそれで一杯になっているのではない。ここかしこに、見物の通れぬ裏通りが出来ている。芝居の奈落みたいな所、がらくた道具を積上げた物置様の箇所。