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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
通路の所々に開いている、非常口の扉の奥を覗いて見ると、薄暗い、舞台裏の長廊下を、係員などが、物の怪の様に、さまよっているのが、不気味に眺められる。
若し兇悪な犯罪者があって、この迷路の中へ逃げ込んだなら、一月でも二月でも、安全に隠れていることが出来るかも知れない。
張りボテの山、本物の森林、菊人形の背景の建物、実に無限の隠れ場所がある上に、数限りない等身大の生人形、それに一つヒョイと化けて、薄暗い菊の茂みに、何食わぬ顔をして立っていることも出来るのだ。
それはさておき、今、文代と例の怪人物とは、両側に満開の桜の山をしつらえた、義経千本桜の生人形の場面を通り過ていた。
「生人形という奴は、何だか本当に生きている様で、薄気味の悪いものですね」
男はマスクの下から、呑気に話しかける。
「アノ明智さんは、一体どこにいらっしゃるのでしょうか」
文代は薄々明智がいるなんて、嘘っ八だと感づいていたけれど、さも気掛りらしく、尋ねて見る。
「もうじきですよ。もうじきですよ」
男はそう答えながらも、なぜかソワソワし始めた。そして、しきりと外套の右のポケットを気にしている様子だ。