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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

彼はとうとう、泣き出し相になって、何か訳の分らぬ事をわめきながら、出口の方へ走って行った。

文代の折角の思いつきも、かくして、無駄に終ったのであろうか。

如何にも、場内には、信号の分るものは、外に一人もいなかった。だが、場外に、国技館目がけて疾走する自動車の中に、我が明智小五郎がいた。彼は当然、走る車の窓から、あの巨大な丸屋根に輝くイルミネーションを見つめていたのだ。

その時、彼等の自動車はまだ浜町辺にさしかかったばかりであったが、国技館の丸屋根はどんな遠方からでも見通しだ。

真黒な大空に、ベラ棒に大きな、支那人の帽子みたいな、丸屋根を縁どって、輻射状の、異様な星がつらなっていた。

アア、何という物凄い光景であったか。その星共が、パチパチ、パチパチと、ある拍子を取って、一斉に瞬いたのだ。S・O・S……S・O・S……と。

明智は、直にその恐ろしい意味を悟った。暗の大空に、文代さんの、のたうち廻る、巨大な幻影が明滅した。

「運転手君、フル・スピードだ。僕が責任を持つ。四十哩、五十哩、出せるだけ出してくれ」

明智は、殆ど肉体的苦痛を感じて、叫んだ。

丁度その頃、国技館の事務所では、この興行を預かる、支配人のS氏が次々とかかって来る、不思議な電話に、面くらっていた。