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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
「これだけ探してもいない所を見ると、曲者はとっくに、外へ出てしまったのでしょう。あの大勢の見物人の間に混っていますと、いくら注意して見張っていても、見逃すということもありましょうからね」
警官隊を引きつれて来た老警部が、あきらめた様にいった。
「イヤ、僕にはどうもそう思えないです」
明智が反対した。「賊は文代さんを、態々ここへおびき出したのです。おびき出したからには、この国技館の建物が、ある犯罪を行う為に、特に好都合であったと考えなければなりません。配電室へつれ込むのが、最終の目的ではなかったのでしょう。御承知の通り、あいつは殺人鬼なのです。仮令賊はここから逃げ出したとしても、被害者か、或は……被害者の死骸が、場内のどこかに隠されている筈です」
更に協議の結果、今度は手段を変えて、警官達は、各出入口に集まり、明智と小林少年と二人丈で、足音を盗み、耳をすまして、広い場内を一巡して見ることにした。
もう捜索を断念したと見せかけ、相手が油断をして、姿を現すか、物音を立てるのを待って、引捕えようというのだ。
その頃には、騒ぎを聞きつけて、土地の仕事師連中が事務所へつめかけていたので、万一の為に、その人々の手で、ピストルが用意され、明智も小林少年も、それを一挺ずつポケットにしのばせて、最後の捜索にと出発した。