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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
電燈はまだつけたままになっていたが、明るければ明るい程、人気のない、ガランとした場内は、異様に物淋しく、不気味であった。
今や場内ひっくるめて、何百体という、人形共の天下であった。
彼等は、誰も見ていない時には、コッソリあくびをしたり、小声で話し合ったりするのではないかと思われた。
その中を、たった二人で歩いている人間は、却て人形共に眺められ、批判されている様で、薄気味が悪かった。
じっと見ていると、どの人形も、どの人形も、夫々のポーズで、ひそかに呼吸し、瞬きさえした。
彼等に賊の行方を尋ねて見たら「ホラ、そこにいるじゃないか」と教えてくれたかも知れないのだ。
捕物の経験を持たぬ小林少年は、いくら力んで見ても、ゾクゾクとこみ上げて来る恐怖を、どうすることも出来なかった。彼はポケットのピストルを握りしめて、力と頼む明智のうしろに、より添う様にして歩いて行った。
やがて、二人は、場内で一番薄暗い、見上げる様な並木と、竹藪とにとり囲まれた箇所へ、進み入った。
作り物である丈けに、本当の森林よりも、却て妙に恐ろしかった。その上、思いもかけぬ木蔭から、生々しい人形の首が、ニーッと覗いていたりするので、まるで化物屋敷へ迷い込んだ感じである。