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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

新聞記者は、西部劇のカウ・ボーイではないのだから、飛行機から、投げ繩で、風船の賊を捕えるなどという、芸当は出来ない。といって風船を射落す様なことをすれば、こちらが人殺しの罪人だ。

では、彼は雲の中で、一体何をして来たかというに……

飛行機が薄い雲を破って、上空に出ると、そこに、夢の様な広告風船がポッカリと浮んでいるのが見えた。昇るだけ昇り切って、風のまにまにゆるやかに、雲の海を漂っているのだ。

先ずカメラを向けるのが、新聞記者の習慣だ。空中でもそれに変りはない。あるいは遠景を、あるいは近景を、飛行機の位置を見はからっては、パチパチと、数枚の写真をとった。

新聞記者としては、これだけでも大手柄だが、写真を撮ってしまうと、今度は賊に向って、大声に呼びかけたものだ。

プロペラの音に消されて、先方に通じるかどうかも分らなかったけれど、兎も角も叫んで見た。

「オーイ、そうしていたところで、自然にガスがもれて、落るにきまっているぞオ。眠くはないのかア。腹はへらないのかア。そんな苦しい思いをするよりも、ナイフで気嚢を突き破って、おりろやあい」

というようなことを、切れ切れに、繰返し繰返し、叫びつづけた。