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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

「持って来ました。どういうお考えか分らなかったけれど、あなたの御依頼ですから、兎も角、型を取って来ました」

恒川氏は、白布に包んだ、小さなものを、枕元のテーブルに置きながら、

「しかし、こういうものは、もう必要ありますまい。犯人の素性が、やっと分ったのです。実はそれをお知らせしようと思って」

今度の事件での、明智の働きは、警視庁の名探偵から、斯様な取扱いを受ける値打が、充分にあったのだ。

「分りましたか、一体何者でした」

「非常に変った男です。医学上、一種の変質者なのでしょう。あまり有名でない探偵小説家で、園田黒虹という奴です」

「ホウ、探偵小説家でしたか」

「新聞に出た死人の写真を見て、そこの家主が知らせて来たので、早速彼の住いをしらべて見ましたが、実に恐ろしい奴です」

園田黒虹というのは、一年に一度位ずつ、忘れた頃に、ポッツリと非常に不気味な短篇小説を発表して、猟奇の読者を怖がらせている、奇妙な作家であった。

世間は勿論、彼の作品を発表した雑誌でさえも、黒虹という男が、どこに住んでいるのか、どんな顔をしているのか、少しも知らなかった。原稿はいつも違った郵便局から郵送され、稿料はその時々の局留おきで送ることになっていた。