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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
「茂ちゃん、だまって。少しでも声を出したら、こわい小父さんが母さまを捕まえに来るのですよ」
三谷は茂少年に泣き出されることを最も恐れた。だが、おびえ切った六歳の少年は、まるで泥棒猫の様に、身をすくめ、足音を忍ばせ、声を立てようともしなかった。
三谷は二人を洗面場に立寄らせ、それから、廊下を忍んで、棺のある広間へと連れて行った。
倭文子達は勿論、三谷もその頃は暗に目がなれて、電燈を消した室内の様子が、ハッキリ見える程になっていた。
「サア、この棺の中へ隠れるのです。大型の寝棺だから、少し窮屈だけれど、あなた方二人位は入れます」
三谷の異様な指図を聞くと、倭文子はびっくりして、思わず身を引いた。
「マア、こんな物の中へ?」
「イヤ、縁起などをいっている場合ではありません。サア、お入りなさい。この外に、無事に邸の外へ出る方法は絶対にないのです。葬式は明日のお午過ぎです。それまでの辛抱です。死んだ気になって、隠れていて下さい」
結局三谷のいうままになる外はなかった。倭文子が先に、その裾の方へ茂少年が、重なり合って、棺の中へ横になった。三谷はその上から元通りふたをした。