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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
そうする為には、お互の後頭部が、棺の板にゴツゴツ当って、ひどく痛かったけれど、痛い位は何でもなかった。
「坊や、堪忍してね。苦しいでしょ」
「母さま、泣いてるの? 怖いの?」
茂は我が頬に母の涙を感じて、心配そうに尋ねた。
「イイエ、泣いてやしません。もうなんともないのよ。今に三谷の小父さんが助けて下さるのよ」
「いつ?」
「もうじきよ」
間もなく車はお寺についたらしく、棺が運び出されまたしても、長たらしい読経が始まった。
倭文子はその間中、人々に感づかれはしないかと、気が気でなかったが、茂少年が、まるで大人の様に用心深くしているので、別段のこともなく、やがてまた、棺は葬儀車内に運ばれた。
「アア、何て待遠しいことだろう。でも、もうほんの少しの辛抱だわ」
倭文子は何よりも早く恋人の顔が見たかった。あの人の顔さえ見れば、さっきのような恐ろしい妄想も、忽ち消えてしまうのだと思った。
葬儀車はまたブルル、ブルル走り出した。
「母さま、まだなの?」
茂少年がたまり兼ねて、たずねた。
「もう少しよ、もう少しよ」
倭文子は我子に頬ずりしながら、答えた。
「どこいくの?」
茂は彼等の行先が、ひどく不安らしい様子である。