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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
だが、エンジンの音ではない。もっと近くの、倭文子達の真下から聞こえて来る、一種異様の物音だ。
ザラザラと何かの落る音。カランと金属の触れ合う響。そして、かすかに人の歌う声。
卑俗な流行歌を歌う、男のドラ声だ。
アア、分った。隠亡が鼻唄を歌いながら、下の焚き口へ、ショベルで石炭を投げ入れているのだ。
いよいよ最後の時が来た。
耳をすますと、気のせいか、ボーと燃え上る炎の音まで聞こえて来る。
「母さま、どうしたの? アレなに?」
茂が乳房を離して、おずおずとたずねた。勿論ささやき声だから棺と鉄扉と二重の外まで、聞こえる筈はない。
「茂ちゃん、いよいよ天国へ行けるのよ。今、神様がお迎えにいらっしゃるのよ」
とはいうものの、倭文子の心臓は、恐怖のために破れ相だ。
「神様、どこにいるの?」
「ホラ、聞こえるでしょう。ボーッという音、アレ神様のはねの音なのよ」
彼女はもう気が違い相だ。
茂はじっと聞耳を立てていたが、彼にも火の燃えるかすかな音が聞こえたのか、俄に母にしがみついて、乳房に顔を埋めた。
「母さま、怖い! 逃げようよ」
「イイエ、ちっとも怖くはないのよ。ちょっとの間よ。