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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
井戸の底
といって、本当に飛び込んだ訳ではない。死骸といっても、彼はお芝居の死骸なのだから。投げ込まれる格好をしただけで、ピョイと井戸の口を飛び越して、物置の隅に立った。
マスクの人物も、同じ隅へ行って、敵同志が、なかよく並んで、控えている。
「これが第二幕目の終りです」
明智が解説した。彼はやっぱり三谷の手を握りつづけている。
「で、まだ三幕目があるのですか」
恒川氏が、真暗な古井戸をのぞき込みながら、鼻をピクピクさせて、尋ねた。
「エエ、三幕目があります。しかし、ご退屈でしたら、三幕目は口でいっても分るのです」
「それがいい」
警部は即座に賛成して、
「だが、その前に、僕はこの井戸の中を調べて見たいのです」
と、もう我慢が出来ぬ様子だ。
「では、そこの隅に小さい梯子がありますから、それを井戸の中へ立てて、降りてごらんなさい。懐中電燈をお貸ししますから」
舞台監督のお許しが出たので、警部は早速、懐中電燈を借り、梯子をおろして、井戸の中へ入って行った。その底に、あんな恐ろしいものが横わっていようとは、まるで予期しないで。
降りて行くと、先ず最初、懐中電燈の光に照らし出されたのは、さっき投げ込まれた藁人形だ。