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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

そしてわら人形も、一寸法師の死骸も、この井戸の中へ投げ込まれた。

わら人形は小川正一である。とすれば、残る一人は、この唇のない奴は、お芝居の方の一寸法師に当る訳だ。あの小怪物が「唇のない男」の役を、如実に演じて見せたのである。

「すると、我々があんなに探し廻っていた犯人は、この邸の天井裏にかくれていたとおっしゃるのですか」

恒川氏は信じ切れぬ調子だ。

「で、こいつは、一体何者です。第一どういう訳で、場所もあろうに、この邸の天井裏なんかを、隠れ場所に選んだのです」

彼はむらがり起る数々の疑問に何からたずねてよいのか、判断もつかぬ有様だ。

「この男が、天井裏へ隠れていたのは、何も不思議なことではありません。誰しも、我が家は、殊に自分の書斎はなつかしいものですからね」

やみの中の明智が、事もなげに答える。

「我が家ですって? 自分の書斎ですって? というと、何だか、畑柳家が、こいつの邸みたいに聞えますが……」

警部は益々分らなくなった。

「そうですよ。この男こそ、この家のあるじなのですよ」

「エ、エ、何ですって?」

恒川氏の頓狂な叫び声。

「この唇のない男が、外ならぬ、倭文子さんの夫、畑柳庄蔵氏なのです」