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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
その結果、故意か偶然か、谷山は唯一の出入口であるドアを背にして立つことになった。
倭文子は、茂少年を抱きしめて、ブルブルふるえながら、人々の蔭に身を隠す様にしていた。
「探偵さん、邪魔だ。どいてくれ。それとも、君は倭文子の身代りになって、このピストルを受ける積りかね」
谷山の血走った両眼に、気違いめいた憎悪のほのおが燃えた。
「身代り結構。一つズドンとやって呉れ給え。ここかね、ここかね、それともこの辺をねらうかね」
明智は無謀千万にも、相手のピストルの前に立ちはだかって、我が額を、喉を、胸を、順次に指さして見せた。
文代と小林少年の顔色が、サッと変った。谷山の指がホンの一分か二分動けば、明智の命はないからだ。
「危いッ」
たまり兼ねた恒川警部は、とっさの機転で、いきなり明智を弾道の外へ突き飛ばした。
同時に、谷山のピストルがカチッと鳴った。彼は妙な顔をしてカチ、カチと続けざまに、引金を引いた。
「ハハハハハハ」
突き飛ばされた明智がよろめきながら、こう笑した。
「丸が出ないようだね。そのピストルは」
谷山は、忽ちそれに気づいて、ピストルを床に投げつけた。
「畜生ッ、さては貴様、ピストルの丸まで抜き取っておいたのだな」