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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

偶然であったか、あるいは不可思議なる天の摂理であったか、明智の病気が、この物語りに意外な、しかもまた考え様によっては、甚だ妥当な結末を与えた。それは、いわゆる「目出度し、目出度し」ではなかったのだけれど。

ある日恒川警部が、本郷のS病院に入院中の明智小五郎を見舞った。

「もう、あれから半月ですね。しかし、何の変った事もありません。やっぱり谷山は火事場で焼け死んだのが本当でしょう。でなくて、こんなに長い間、沈黙している筈がありません」

警部も、多くの人々と同じく、谷山焼死説を信じていた。

「我々は、あの骨が谷山のものであるという、何等の確証を持ちません。探偵道には『多分そうだろう』という考え方は許されないのです。どんなさ細な疑いも見のがしてはなりません。それが非常に重大な結果をひき起すことがあるからです」

明智はベッドに仰臥したまま、肩のいたみに顔をしかめながらも、熱心にいった。

「で、僕等は警戒しているのです。畑柳家には今でも、二名の刑事が書生に化けて入り込んでいます。だが、何の変ったこともありません。倭文子さんがひどく快活になって行く外には」

警部は苦々しげにいった。