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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
「わたし、あれはただおばけだと存じて居りました。それがこんな本当の人殺しをするなんて……」
恒川氏は、お波のこの異様な言葉を、聞きとがめないではいられなかった。
「お化けだって。何かそんなことでもあったのかね」
「エエ、奥様が、それを御覧になったのです。四五日前のことでございます。奥様は、婆あや夢かも知れないけれどといって、私にお話しなさいました。真夜中に、妙な影の様な人間が、奥様の寝台の枕もとにションボリ立って、じっと奥様の寝顔をのぞき込んでいたのだそうでございます」
「フン、そいつはどんな風体をしていたとおっしゃったね」
警部はお波の怪談に興味を感じた。
「それがあなた。着物は何だか黒っぽいもので、ハッキリ分らなかったけれど、顔は、確かにあの三谷のやつに相違なかったと、おっしゃるのでございます」
「で、奥様は、どうなすったのだね」
「どうにもこうにも、ただもう夢中で、蒲団を頭からかぶったまま、ふるえていらしったと申します。そして、しばらくたって、怖々蒲団の中からのぞいて見ると、その時は、もうおばけは、どっかへ姿を消してしまって、何も見えなかったそうでございます。