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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
「フン、合トンビを着ていたのか」
「ヘエ、新しい上等の奴を着て居りました」
「年配は?」
「ハッキリ分らねえが、六十位の爺さんでがした」
刑事達は、この子持ち乞食を、一応警察署に同行して、なおきびしく取調べたが、上野公園で聞き取った以上のことは何も分らなかった。
態々女装までして、ノコノコ出かけて行った三谷は、実に間の悪い思いをしなければならなかった。
彼はそこそこに、刑事達に挨拶をして置いて、通りがかりのタクシーの中へ逃げ込んで、畑柳家に引返した。
帰って見ると、更に驚くべき事件が、彼を待受けていた。
「奥さんは、さい前、あなたからのお手紙でお出掛けになりました」
という書生の言葉だ。
「手紙? 僕はそんなもの書いた覚えはないが、その手紙が残っていたら見せて下さい」
三谷は烈しい不安の為に、胸をワクワクさせて、叫んだ。
書生が探し出して来た手紙というのは、何の目印もない、ありふれた封筒、ありふれた用紙、それに巧みに三谷の筆蹟を真似て、こんなことが書いてあった。
倭文子様。
この車に乗って直ぐ来て下さい。茂ちゃんが、怪我をして、今病院へ担ぎ込んだ所です。早く来て下さい。