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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

だが、この訳の分らぬ会話には非常に重大な意味が含まれていたのだ。その時明智が示した困惑の表情は、彼が決して並々の探偵でないことを証するに足るものであった。読者はこの些細な出来事を後々まで記憶にとどめて置いて頂きたい。

それは兎も角、三谷の名刺入れに、幸い岡田の名刺が入っていたので、それによって、彼の元の住所を訪問することになった。

タクシーが止まったのは、代々木練兵場の西の、まだ武蔵野の俤を残した、淋しい郊外であった。

探すのに少々骨が折れたけれど、結局元岡田が住んでいたアトリエを見つけることが出来た。

雑草の蓬々と生い繁った中に、奇妙なとんがり屋根の、青ペンキの洋館が建っていた。純然たるアトリエとして建築したものだ。

這入ろうとしたが、扉も窓も厳重に締がしてある。まだ空家のままなのであろう。

半町程隔たった、やっぱり野中の一軒家が、このアトリエの家主と聞いて、二人はそこを訪ねた。

「あの家をお貸しになるのでしたら、一度拝見したいのですが」

明智はきっかけをつける為に、そんなことをいって見た。

「あなた方も、絵や彫刻をなさる方ですかね」

家主というのは、四十余りの、慾ばりらしい田舎親爺だ。