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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

もっとも、もしかしたら、冴子のその言葉は気取りにすぎない――とも、信吉はひそかに思っていた。ただ、気の利いた言葉を言っているだけにすぎないのかも知れない。

どこが好きかときかれて、

「そんなこと一ぺんも考えたことないわ。頭の先から足の先まで、何もかも好きよ」

と答える女の方が、冴子より正直かも知れない。

しかし、所詮はみな言葉だ。正直といえば、

「おれが接吻してやったから、好きになったのだ」

という事実の方が、正直であり、真相をうがっているかも知れないのだ。

それを、信吉は心の底で、知っている。ごまかしようのないリアリズムとして、知っている。言葉よりも、何よりも、結局肉体のつながりが、女の男への気持をがらりと変えてしまうのだ。これが女の弱さだ、あわれさだ。女というものが、いかに男と対等の立場に立っても、結局男によって、処女を失うという運命を背負っていること、そしてこの処女を失うという行為が、女の心理に与えるショック、その感覚的な残酷さ、――この事実を無視して婦人問題もへったくれもない。男にとっても、女にとっても、この事実は性教育とか人類繁殖の公理だという説教で解決できる問題ではない。