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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

の演出をしているのだった。食うために商業劇団の演出へ身を落したとはいいながら、さすがに仕事は丁寧で、信吉も田村の演出があればこそこの劇団の脚本を応募する気になったのかも知れない。

「――でも、田村先生も奥役の言うことはきくのね。随分変ったわ」

「田村さん、いつもあんな風ですか」

田村の演出振りは妙に投げやりで、キメが荒かった。

「いいえ。いつもは細かいのよ。でも明日は先生の公判の判決の言い渡しがあるらしいの。先生きっと苛々していらっしゃるんだと思うわ」

信吉は情けなくなった。俺の処女作の上演の初日が演出家の公判の判決の当日に当るとは……。しかし同時にふと田村に同情した。今ここで事を荒立てたら、田村に気の毒だと思った。自尊心を傷つけられた憂欝は辛うじてこの冴子で慰められる。――いきなり、

「明日……」

昼食を食べにホテルへ来ませんかと、信吉が言いかけると、しかし冴子は、

「衣裳をつけて来ますから……」

と、もう立ち上っていた。

そして信吉に物を言う隙も与えずに、すっと立去ってしまった。

すかされた思いだったが、やがて衣裳をつけた冴子が舞台へ出てくると、信吉の眼はギラギラと輝いた。