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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
彼はその自尊心にかけても待ち伏せすることの出来ない男であった。雨に打たれながら、冴子が出て来るのを待っているなぞ、信吉には金輪際出来ぬ難しいことだ。俳優の下駄箱の前の頭取部屋へはいって、頭取と雑談しながら、あるいは、雨が小降りになるのをうかがっている――これも情けなくて出来なかった。信吉が舞台から楽屋の裏口へ出て行くのと、冴子が楽屋のエレヴェーターで降りて来るのと殆んど同時でなくてはならない。その偶然を信吉はねらっているのだ。信吉のエスプリは不自然さを本能的に嫌っている。だから、自然さを自ら作り出そうとするのだ。芸術家だろうか。一種のダンディズムと言ってもいいかも知れない。
ダンディズムの表情はもともと冷酷だ。で信吉は冷酷な顔をしているのだ。
しかし、いかにして自然さを作り出そうというのか。信吉が楽屋の裏口へ出て行くのは、名優の出のように、遅すぎても早すぎてもいけない。遅すぎては万事休し、早すぎては不自然だ、この計算は結局名優の勘であろう。冴子が楽屋へ戻って、ドーランを落し、衣裳を着変えて、エレヴェーターで降りて来るまでの時間を計るのは、勘以外にはない。