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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

第五章

あはは……いい質問だ」

紳士はその新聞の死亡広告欄を指して、

「ここに、蜂谷重吉の死亡広告が出ているでしょう」

「ええ」

「元衆議院議員蜂谷重吉昨七月卅一日永眠仕候。――とあるでしょう。あなたは蜂谷と言う代議士を知っていますか」

「いえ、聴いたこともありません」

「そうでしょう、私も聴いたことがない。蜂谷重吉という男は代議士じゃありませんよ」

「じゃ、何者ですか」

「何者でもないが、しかし、蜂谷重吉は即ちこのわたしです」

「えっ?」

「この新聞によれば、蜂谷重吉は昨日死んだことになっている。ところが、わたしはげんにこの通り生きている。新聞なんて凡そ出鱈目だ」

「なるほど。ところでこの死亡広告主はつまり、あなたなんでしょう」

信吉がすかさずきくと、紳士は微笑一つ見せず、

「そうです」

と答えた。

第五章

ダンディの意味について。

信吉が女にとって魅力があるというくだらない説明。

冴子は帽子をかぶって来たこと。

須賀信吉という男は、女たちのいわゆる神経質な表情と、放心したようなキョトンとした虚ろな眼や笑った時の眼尻の皺から感じられる子供っぽい表情と、二つの表情の交錯する顔を持っていた。