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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

そして暫くお互い黙黙として飲んでいたが、やがて娘は思い切ったように、

「失礼ですが、ここにお泊りになっていらっしゃるんですの」

信吉も鍵をぶら下げていた。

「はあ。あなたもですね」

「はあ。――はじめてホテルへ泊ったので退屈で困っていますの。お部屋にいても詰らないし……」

「外へ出られないんですか」

「日中は暑くて……」

「なるほど……」

信吉はこの退屈している娘を舞台稽古見物に誘おうかと思った。

「夕方なら涼しくなるでしょう。どうです、僕の芝居の稽古を見に行きませんか」

「芝居にお出になりますの」

「いや、役者じゃありません」

「はあ。じゃ脚本を……」

「え、まア」

「あのウ稽古何時頃ですの」

「四時半からです」

「あら残念ですわ。あたし四時半までに日本橋へ行かなくっちゃなりませんの」

「そうですか。じゃ明日の初日を見て下さい。切符とって置きます」

「明日の朝もう発ちますの。残念ですわ」

「そうですか。そりゃ……」

信吉は興冷めしてしまった。

喫茶室は混んでいた。信吉達のテーブルの傍にも、空いた場所を物色している客が立っていた。

信吉は伝票を掴んで立ち上った。娘も同時に立ち上った。